◆『理性の眠りは怪物を生む』フランシスコ・デ・ゴヤによる銅版画作品
理性の眠りは怪物を生むのだ
『理性の眠りは怪物を生む』は、スペインの画家であるフランシスコ・デ・ゴヤによる銅版画作品のタイトル。
1797年から1799年の間に銅版画で制作された風刺画集『Los Caprichos』(ロス・カプリチョスー気まぐれの意)のうち43番目の作品に、そのタイトルはつけられた。
「理性でこの世の悪夢(その時代における古い制度や迷信など)を制する」という意味と、「芸術家は理性による束縛を逃れてこそ自由な想像力で表現することができる」、という意味に読み解くこともできる。
画家の気質や時代的背景が重なり合ってか、ゴヤの生み出す多くの銅版画作品からは、闇の中から得体のしれない何かが這いだして来るような、鬼気迫るものを感じる。
一枚の絵ハガキ
学生時代、わたしは油彩画専攻クラスにいた。
そのとき、先生から一枚の絵ハガキをいただいたのが、ゴヤとの出会いだった。
絵ハガキには、ゴヤの銅版画作品
『理性の眠りは怪物を生む』
が印刷されていた。
机に突っ伏した顔の見えない男に群がる、黒っぽい生き物たちと、何より不気味なタイトル。
いただいたのはいいけれど、宛名を書いて誰かに出すのをためらってしまうほど印象深い一枚として、長く私の手元に残ることとなる。
銅版画制作を細々と続けるうちに、『理性の眠りは怪物を生む』は、ときどき頭の中に思い浮かぶようになった。
10代の頃、まさに理性が眠りこけている怪物…怪獣のような生徒に
「もう少し我慢強くふんばりましょう」
という意味で、困り果てた先生が放った無言のメッセージだったのかもしれない。
それとも、わたしと銅版画との出会いを予感してたのだろうか。
それこそ「気まぐれ」だったりするのかもしれない。
いま一度、この絵を見て思うこと
あらためて、このゴヤの銅版画『理性の眠りは怪物を生む』をみると、ひとつの疑問が浮かぶ。
表現することを仕事にしている人たちの「理性」って何だろう。
それは、日々の小さな目的を見極めようとすることなのではないか、と思った。
作家がくり返し選んで描くモチーフ。
鑑賞者のまなざし。
毎日の生活。
それらは、見えないところでつながっている気がする。
その見えない、言葉にするのが難しいなにかを
「今、自分にできる限りの方法で見えるようにすること」
が作家の理性だと思う。
制作のテーマたちは、今もどこかで眠っている。
それらを、一つひとつ起こしてやるという際限のない極みに向かっていく。
春、柔らかに眠る怪物をイメージしながら、これからもコツコツを作り続けていく。
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