◇銅版画の画材 「ルーレット」を使ってみた ①

ルーレットとは?
ルーレットとは、先端に小さな鑢(やすり)のような歯車が付いた銅版画用の道具です。
ニードルが線で描画するのに対し、ルーレットは少し広い面を描画するのに使用します。
銅版の表面に先端を押し当て、転がしながら模様を刻んでいきます。
フランス語で「小さな車輪」を意味する「ルーレット(roulette)」という名称のとおり、
小さな金属製の歯車を回転させることで、版に細かな傷をつけていきます。
その結果、点描や、網掛け模様など、漫画のトーンのようなグレースケール表現を版上に作ることができます。
私自身、制作で使う機会はほとんどないにもかかわらず所持しており
……いわゆる「持ち腐れ」という状態でした。
せっかくなので、この道具を使ってテストピースを作るまでの記録を残すことにしました。
なお、私は右利きのため、以下の説明では道具を持つ手を「右手」、持っていない方を「左手」とします。
※歯車の形状によって、規則的な模様が出るものを「ルーレット」、
ランダムな梨地模様が出る卵型・球形のものを「ムーレット」と呼び分けるそうですが、
本稿では呼称をすべて「ルーレット」に統一します。
まずは、ルーレットを持ってみましょう

まずルーレットを手に取ったら、①〜③の部分に注目しましょう。
① 版に当てる歯車
② 歯車と持ち手をつなぐ軸の部分
③ 持ち手の柄の角
銅板の表面に①の歯車を押し当て、②に指を添えて転がしながら模様を刻んでいくのですが、これが意外と難しい作業です。
歯車を当てる角度が少し変わったり、転がす際の力加減がわずかに違ったりするだけでも、思うように模様が入らなくなってしまいます。



道具を持ったときに、②の部分が版面からどの程度離れているかを意識し、
自分にとって使いやすい角度を覚えましょう。
この角度感覚をつかむことが、安定した操作への第一歩になります。
また、初心者の私にありがちだったのが、作業に夢中になるあまり、
③の柄の角が版面に当たりそうになってしまうことでした。
無意識のうちに手元が下がってしまうため、思わぬ傷をつけてしまう恐れがあります。
そして、おそらく最初に直面する難しさは、まさにこの点にあるのだと思います。

使用する上でのコツは、軸の先端を右手の人差し指で軽く押さえ、転がしていきます。
添え方は、右の人差し指のほかに、右の親指、左の人差し指など、
画面上の面積や表現したい部分によって変えていきます。
歯車を回していくためには、添えている指先の感覚が大切です。
歯車に刻まれた凹凸を、指の押し加減や歯車の角度を調整し、
転がしつつ狙った版面に模様を刻んでいきます。
それは、非常に繊細で、忍耐と集中力を必要とする表現方法です。
「そんなの、柄を握っている手だけで転がせばいいだけじゃない」
と思う方もいるかもしれませんが、
まあ……「習うより慣れろ」とも言いますしね。
そんなわけで、私自身がこのルーレットに慣れる以前の状態を、今回余すところなく記録しました。
どうぞご覧ください。
ルーレットを使ってみよう‐ランダム模様ができる歯車2種‐
では、さっそくルーレットを使っていきましょう。


版面は8分割してあります。
上段4面のA~Dは、エッチング銅版画に使われるグランド液の塗布と、ワックステーパーで煤つけが済んでいます。
下段4面A*~D*は、後ほどグランド液を塗らない銅の原版へルーレットを使用していきます。
まずは、ルーレットA(先端が球体のもの)を使ってみます。





ひとまず、面の上をまんべんなくルーレットを動かしてみました。
た、楽しい。
版面の色が粒上にキラキラと変わっているところが、歯車によって模様がついている状態です。
次に、ルーレットB(先端がピーナッツ状のもの)を使ってみます。

コロコロ。
コロコロ。
楽しい。
楽しすぎて、思わず無言になる。
しかし、指を押し付けすぎて、転がせずに金具そのものが滑ってしまい、
キュっとした線状の傷がついてしまうというハプニングがありました。


ひとまず試してみて、次のことが分かりました。
・球形とピーナッツ型のルーレットは、それぞれランダムな梨地模様が出ること
・版面全体に転がす回数を重ねるほど粒子が増え、画面の模様密度が高くなっていくこと
手数と表情がきちんと比例していくのが実感できます。
ルーレットを使ってみよう 2‐規則正しい網目模様ができる歯車2種‐
次は、規則正しい凹凸が刻まれたルーレットCとD(先端が円柱形のもの)を使ってみることにます。
漫画のトーンのような、繊細なグレースケール表現を刻むことができるルーレット。
使っているうちに、とても繊細な表現ができる!と実感はあるものの……

ルーレットDを使用した右側の面は、網目模様がきちんと出ている部分もあるのですが、押し付け過ぎると版面のところどころに、ベリベリと剥がされたような大きな模様が現れてしまいました。
どうやら、歯車の凹凸に詰まったグランド液や煤を拭き取る工程を省略してしまったことが
原因のようです。
そして何より、模様を刻んでいく時間においては「焦りは禁物」だということを、
身をもって学びました。

こちらの版を一度腐食したあとは、グランド液をすべて拭き取ります。
銅の板面へ直接ルーレットをあてていく

腐食を終えて、グランド液をすべて拭き取った状態の銅版。
こちらへ、先ほど使用したA~Dのルーレットを使い、下段の4面、銅の板面へ直接歯車をあてていきます。




わかったこと

同じ形状のルーレットで、異なる条件をもつ版面へそれぞれ歯車を当てたところ、以下の事が分かりました。
グランド液を塗布した状態の版面へルーレットを使用するとき
・歯車がすべりやすい。
・グランド液や煤が歯車の溝に詰まったまま使用すると、剥がされたような風合いになる。
・ニードルなどの尖ったものとくらべて、やわらかな表現ができる。
・腐食液を使うので、漬け込む時間が長いほど凹凸がはっきり出る。
銅の版面へ直にルーレットを使用するとき
・ルーレットの歯車の跡が、より顕著に表れる。
・直接ルーレットを使用した方が、よりやわらかな空気感が表現できる。
そして、両方の条件で共通して言えることは、
・ルーレットに意識と両手が集中すると、「手が足りない状態」になるので、
版そのものが動かないように、机に固定すること。
・歯車の面がどこか一部に偏らないように、銅の金属面としっかり密着させること。
以上でした。
次回はいよいよこの版をプレス機で刷ってみます。







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