◇銅版画の作る前の、作り方-銅版の表面を磨く-

銅板を磨く?

傷を防止するフィルム

制作のはじめに、銅版の表面を磨きます。

ホームセンターなどで購入した銅板は、表面を磨いた方がよい場合があります。

傷が付かないよう片面をビニールフィルムで覆ってあるものも多く、

一見するときれいに見えるかもしれません。しかし実際には、目に見えない細かな傷や、

製造・加工の際についたわずかな凹凸が残っていることがあります。

また、銅版画用として販売されている銅板も、そのまま使うのではなく、

作品によっては鏡面のようになるまで丁寧に研磨することがあります。

これは、繊細な線を刻む際に、針先がなめらかに版面を走るようにするためです。

また、目には見えないほどの細かな傷や、金属加工の際についたわずかな凹凸を

整えることで、刷り上がりの画面に生じる曇りや不要なムラを抑えることができます。

一見すると地味な作業ですが、この下準備が作品の透明感や線の美しさ、そして版の表情を大きく左右します。

実際に磨いてみました

手に持っているのが研磨用の炭

今回、珍しく研磨用の炭も使ってみることにしました。

研磨炭は、木炭のきめ細かな研磨性を利用して金属や漆器の表面を整えるための道具で、

銅版画の版面磨きにも使われています。

銅版や七宝焼きなどの研磨用途にも用いられてきた伝統的な素材です。

ただし、一般的なホームセンターや画材店ではあまり見かけません。

探す場合は、彫金・貴金属加工の工具専門店や、大手画材店のオンラインショップで

「研磨炭」「朴炭(ほうたん)」、あるいは「版画用研磨材」といった名称で調べてみると見つかることがあります。

炭ならではの適度な弾力があり、細かな傷をならしながら版面を整えられるのが特徴です。

今回はどのような仕上がりになるのか、私自身も楽しみにしながら作業を進めています。

霧吹きで版面に水を吹きかけてから炭で磨いていきます
全体に銅板が水で濡れていることを確認して炭を使います
これ、傷増やしていない?と不安になりつつ磨く

研磨炭で版面を整えた後は、今度は磨き剤(ピカール)を使ってさらに磨いていきます。

研磨剤 ピカール

ピカールは金属磨き用の研磨剤で、銅版だけでなく真鍮やステンレスなどの手入れにも広く使われています。

ホームセンターでは金属材料や工具の近くに置かれていることが多く、

意外なところでは仏具用品のコーナーで見かけることもあります。

また、容量は小さめですが、ハンズなどでも購入できます。

布や脱脂綿に少量付けて磨いていくと、版面に残った細かな曇りが取れ、

だんだんと光沢が増していきます。研磨炭とピカールを使ったこのひと手間によって、

版面はよりなめらかになり、繊細な線を刻むための準備が整います。

布に研磨剤をつけて、まんべんなく磨いていく
なにやら版面がピカピカになってきました

磨いたものを、磨く前の版とくらべてみた

左:磨く前 右:磨いた後

鏡面磨きというくらいですから、どのくらい磨けたのか分かりやすいように、何かを映してみることにしました。

そこで登場してもらったのが、部屋に置いてある例の「叫び」フィギュアです。

磨き途中の銅版に映してみると、まだ少しぼんやりしているものの、

しっかり姿が確認できます。これからさらに磨きを重ねることで、どこまで像がくっきり映るようになるでしょうか。

磨く前の銅版
磨いた後の銅版

結果、やはり研磨した銅板の方がくっきりと映りました。

肉眼では分かりにくい違いですが、こうして物を映して比べてみると、

表面の状態が変わっていることがよく分かります。

地道な作業ではありますが、版面を整える意味を改めて実感しました。

研磨炭が手に入りにくい、あるいは、そこまで繊細な線表現はしないかもしれないという方は、

ピカールなどの研磨剤で磨くだけでも違いを感じられると思います。

もちろん、画材店ではすぐに彫りの作業に入ることのできる銅版画用の銅板を購入することもできます。

けれども、こうした下準備の工程を経ることで、少しずつ気持ちが制作へと向かい、集中力も高まっていきます。

版を磨き、道具を整え、これから生まれる線を思い描く時間。

その過程もまた、作品づくりの大切な一部です。

「制作の前の、制作」。

そんな時間も含めて、ぜひ体験していただけたらと思います。

雑記

Posted by suho