◇展示現場で困ったとき―ギャラリーストーカー・迷惑客への現実的な対応実践編①対話モデル-

「わかっていても、できない」ことがある
「変な人が来るような場所でやらなきゃいい」と言われたら、それはそう。
しかしこちらはアートに興味のある善良な人間がくると信じて開催するんである。
この実践編は、理想論ではなく、現場で使えることを私なりにまとめたもの。
シンプルで、使うセリフや行動の例も3つまでにした。
個展やグループ展示を続けるための、現実的な選択肢として読んでほしい。
能書きは置いておいて、今まさに困っている方は、いちばん最後の「★すぐ使える定型文集」までスクロールしてもOKです。
「離れにくい」現実
受付に立つと、離れにくい状況は珍しくない。
- 展示会場を離れることへの罪悪感
- 来場者を無下にしてはいけないという思い込み
こうした状況が続くと、「もう少し我慢しよう」と判断を重ねてしまう。
離れられないのは、気が弱いからでも判断力がないからでもない。
そもそも離れにくい配置や役割を背負ってしまっている場合が多いのだ。
現実的な対応
完全に断るのが難しい場合は、正当な理由で距離を取ることができる。
- 用事を作ってその場を離れる
「少し確認してきます」「スタッフを呼んできます」 - 会話を作品に戻す
「よろしければ、こちらの作品もご覧ください」
これだけでも、展示の空気は壊さずに、これまでの距離感を変えられるはずだ。

合図と役割を、事前に決めておく
- 「これは絡まれている/捕まっている」状態の合図を出展者同士やギャラリースタッフと決める
- 一定時間を経過したら多少不自然でも切り上げる
- 用件を切り上げる役を誰かが担う
正直、最後の「切り上げ役」は、ハードルが高い。
レンタルスペースで個展の場合は「その場から離れる」選択を中心にした対応になるだろう。
それでも、展示前に自分の行動を決めておくことで、互いを助けられる場面は確実に増える。

「対応できない」は、経験や年齢のせいではない
在廊中に「何この人……」と思っていたら、
別の作家の知り合いだったり、ギャラリーの常連客だったりして、
妙に居心地の悪い思いをしたことが過去にある。
恥ずかしいことに、何度かある。
だが、これははっきり書いておきたい。
たとえ自意識過剰・神経過敏・被害妄想といわれようとも
誰かにとって「いい人」が、自分にとってもいい人とは限らない。
自分にとって「いい人」が、
相手にとっていい人とは限らないのも悩ましいところだが、
まずは自分を守ることを優先してほしい。

できるだけ「敵」を作らないために
ただ相手を「嫌な人」扱いして追い返すことが、常に最善とは限らない。
多くの場合、最初は誰もが
「展示を見に来た」と、会場に入ってくるからだ。
この事実は、心に留めておこう。
- 話題を作品に戻す
- 会話のゴールを「展示を見ること」に設定する
目的は、感情的に相手に勝つことではない。
最終的に展示鑑賞へ場の空気を戻すことだ。

「きちんとした大人」は、こう振る舞う
展示の場には、なにも失礼な人ばかりが来るわけではない。
(そんな人は稀である。その割に記憶に深く刻まれるから困る。)
大抵はその場のルールに寄り添える人たちばかりだ。
そういう人たちには共通点がある。
- こちらが聞いたり、紹介を受けるまで無闇に自分を披露しない
- 自分よりも若い人、初対面相手にも高圧的にならない
- 不在の出品者と知り合いだと名乗る場合は、その相手とお互い連絡が取れている前提で話す
- 会話の中心が、展示されている作品にある
注意が必要なタイプへの向き合い方
一方で、注意が必要なのは次のようなタイプだ。
- 肩書や立場重視で話を始める
- 自分の経歴を一方的に語る
- 聞いていないのに感想ではなく、批評を始めてしまう
- こちらの反応や立場を試すような発言をする
- 作品を自分ひとりで静かに鑑賞することができない
こうした相手には、態度を急に変えず、まずは注意深く聞く。
そのうえで、会話を目の前の作品に戻せるかを見極める。
(少々話が長かったり脱線したりすることだってある。人間だもの。)
しかしながら、戻ってこない場合は無理に深く関わらなくていい。

最後に|展示会は作品を見せる場
展示は、作品を見せる場だ。
作家が無制限に時間や感情を差し出す場ではない。
困ったときは、
- 離れていい
- 助けを呼んでいい
この実践編は、誰かを排除するためのものではない。
展示を続けるために、自分を守るための行動をしてほしい。
★すぐ使える定型文集(実践用)
その場を離れたいとき
- 「少し確認してきますね」
- 「スタッフを呼んできます」
会話を作品に戻したいとき
- 「よろしければ、こちらの作品もご覧ください」
生理的に答えに詰まる、失礼なことを言われたとき

展示の現場では、ごくごくたまに、理屈より先に
「無理」「気持ち悪い」「失礼すぎる」
と感じて、言葉が出なくなる瞬間がある。
容姿や年齢への踏み込み
性別を前提にした決めつけ
見下し、値踏み、試すような言動
こうした場面で、自分が相手へ
気の利いた切り返しができなくても、何も悪くない。
まず優先するのは、
「うまく返すこと」ではなく
相手の流れを止め、場の主導権を作家やギャラリー側へ取り戻すことだ。

対処法① 反応を最小限にする(止める)
・低い声で短く「は?」
・あるいは、黙る/見つめる(見たくないが)/反応しない
語尾は上げない。
説明もしない。
感情も乗せない。
反応が大きいほど、相手は勢いづいてしまうから。

対処法② 「個対個」から「場」に戻す(共有する)
受付に複数人いる場合は、
相手と議論しようとせず、
同席者・他の出品者と目を合わせて軽くうなずく
それだけでいい。
これは
「今の、聞いたよね」
「この空気、共有してるよね」
という無言の合図になる。
一人で受け止めないためのサインであり、
会話の主導権を「個人」から「場」へ戻す動作でもある。
※首を横に振ると否定が強く出るため、
軽くうなずくのがおすすめです。

書いていて
ほんと勘弁してくれよ、と思う。
こちとら、いい作品、いい展示に心血を注ぎたいと思っているのに。
ギャラリーストーカーという言葉ができたのも、2,3年くらい前。
近年、こういう困りごとに対応する場所が少しずつ増えてきているそうだ。
残念ながら、地方ではアーティストの駆け込み寺みたいなものは、ほぼ無い。
けれども、迷惑行為やそれを行う者に対して、やっと名前が付いたのだ。
アーティスト同士、展示場を管理する者と対話の際において、文化を守るための共通言語ができたこと。
これはもう、結構大事なことなんである。
もし、「いちいち取り締まったらお客さんが減る」
などと言い出す人は、自身が嫌な思いをした記憶を忘れてしまっているか、
嫌な思いをしすぎて、心が摩耗して死んでしまっているかもしれない。
展示関係者同士の分断はさけたいところ。
自分の住む町の文化の地盤を守るためにも、ぜひ心に留めておいて欲しい。
ひとつでもいい、実践例があなたのお守りになることを願ってやまない。
おわりに
「対処が手ぬるい」
「もっとほかの実践方法はないのか」
と思う方もいるだろう。
結局のところ、
自分・作品・相手との距離を確認する。
管理責任者、公的機関に対応を求める際には、感情だけで話さず記録と一緒に報告する。
具体的な接客対応は、出展関係者同士で話し合って共有。
ひとりで抱え込まない。
を、まずは覚えてほしい。
具体的に実践例を書きすぎて、接客している側の逃げ道を塞がれるのを避けたいのも正直ある。
だからといって、上記に挙げた対応をして「自分は迷惑客扱いされた」と思い、ギャラリーへ入るのを
委縮しちゃう人がいたらどうしよう、と心配するのはご無用である。
大抵、こういうとこまで読む人は「対応を迫られる側」だし、
悲しいことに、問題客は自分を問題だとは思っていないのだから。
展示会期中、避けられず起こってしまった事を記録できるチェックシートは次の投稿をご覧ください。
◇展示現場で困ったとき
―ギャラリーストーカー・迷惑客への現実的な対応実践編②チェックシート付-







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