◆【セルフインタビュー】作家が記録 3

2022年2月11日

何が制作の糧になるのかは、わからない

ー自身の創造力、または想像力を高める工夫はありますか?

ー知る喜びを、作る喜びに繋げていくよう努めています。

今は、「何かすごいもの」を、検索をかけるだけで無限に見られる、または見せられる環境にありますよね。
わたし自身、本当にこれが見たかったのか?と時々怖くなります。
そのような中で、自分の心が動いた瞬間を見逃さないようにすることは難しいです。
けれど、詰め込みがちな自分の中に余白(心が動いた瞬間を蓄える場所)を作っておけたらと考えています。

ー実体験で知り得た出来事のほうが、価値があるということでしょうか?

ー自分が「得た」という喜びを感じられれば、入り口やツールは何でもいいと思います。

私の経験をひとつ話しますと、以前、超絶技巧の職人が作った刀装具で「魚々子打ち」という技法が施された刀の鍔(つば)を見たことがあるんです。
数の子よりも小さい円が、鍔一面に隣の円をつぶすことなく並んで打ち込まれているのが圧巻でした。
でも、その粒の群れは絵画でいうところのいわば背景。
メインのモチーフよりも目立たないように、1枚フィルターがかかったような奥ゆかしい居住まい。
超絶技巧なのに、凄さをアピールしていないというか、気配を感じさせない。
世の中には自分が知らないだけで、美しいものがまだまだたくさんある、と衝撃を受けた経験でした。
これは私の「実体験で得た喜び」です。

ーそれは何かしらご自身の制作の糧になりますか?

ー自分の判断で「いいな」と思うものとは別に、「もの」や「ひと」を知る機会があります。
世の中には、自分が生きている間にはたどり着けそうもない極限の表現をする人がいます。
そういうゾッとする作品に出会う機会を、逃してはいけません。

それと同じものを作るわけでも、買うわけでもないのに見てどうするのか?
ジャンルの違う作品を見て意味があるのか?
と思ったのなら、自分がいいものをつくる可能性をひとつ失ったと思っていいです。
何が糧になるのかは、わからない。
けれども、未熟な自分をさらけ出して表現を模索していったときに「知りえた物事」や「喜び(または落ち込み?)」は、今後の制作の支えになっていくと思います。

現実の中で貪欲さを取りもどす

ー今後の制作において、大切にしていることはありますか?

ー自分の創造に対する誠実さ、でしょうか。
自分の作りたいという声に集中する力を大切にしています。
表現のテーマ、今持ち得る技法を制作へ呼応させているのかと、常に自分へ問いかけています。

本当は誰にも、何にも会いたくない、籠りたいときもあります。
でも、ひとりで籠っているだけで制作がなせるとは、今は思いません。
創造力を支えているのは、いつだって現実を自覚するところから。
自覚させてくれるのは、自分の外側にあるもの…他人や社会からの刺激なのです。

ー「絵だけでは食っていけない、でも飢え死にはまだしていない」という現実を自覚することですか?

ー恩師以外からそのフレーズを聞くと、なんというか、堪えるものがありますね。

飢えるほど自分は描いていないではないか、と悶々とした経験があります。
今まで出会った素晴らしいアーティストは皆、自身の作品を生み出すことに誠実で、貪欲でした。

たまに出会うんです。
「わ、魅力的だな。だけどこの人の傍で生きていくのは大変だ。」
という作品(人)に。

ー嫉妬しましたか?

ーしますねえ。

でも、教育現場や文化施設で働いていたときもそうでしたが、そういう人ほど、
「知りたい。力になりたい。」
と思わせる何かがありました。

でも今は、双方の現場からは離れたので、自分への貪欲さを取り戻して制作をしています。

起こしたくない時もある

寝かせておいて、時々起こす
苦悩と自由自在に付き合う

ー制作に行き詰ったときは、どう対処していますか?

ー20代の頃は体力も思い込みもたっぷりあるから、不貞腐れて寝てしまうのが対処法でした。
もちろん社会に出たら、そんなわけにいかないですよね。
なので悩み事を頭の中で寝かせておく。
あとで、悩みを取り出したときにはいくらか落ち着いているので、割と原因が突き止めやすくなっています。

ー苦悩を保存したり取り出して眺めたりするわけですね。

ーそれだけは自由自在ですね。
銅版画は「腐食止めの溶剤が乾くまで」とか「腐蝕液につけて1時間」とか、制作工程ごとにちょっと「待ち」の時間が生まれます。
きっと、それが行き詰まりを緩和させていると思います。

次回、「作家が記録 4-作品を発表すること、評価されることについて」

作品ウェブサイト

須藤萌子の銅版画、ドローイング作品を紹介するサイトです。
こちらもご覧ください。
https://sudohoko2016.wixsite.com/sudohoko