◆版画用紙としての「雁皮紙」オモテとウラの見分け方

今までの中で一番わかりやすい? 雁皮紙のオモテとウラ

銅版画家として、普段から接している紙の「表と裏の見分け方」について、

自分の体験を交えながら解説してきたが、今回は、1番わかりやすいかもしれない。


以前、最高級の紙で難敵のARCHE(アルシュ)紙を紹介したが、

高級と言えばこちらも負けてはいない。

そう、「雁皮紙ーがんぴしー」である。

雁皮紙とは

『雁皮紙』は、ジンチョウゲ科・ガンピという植物を原料にして作られる高級紙。

「日本の羊皮紙」と例えられるほど、虫害に強く、丈夫で保存性が高い紙である。

版画に限らず、書画、お札、古書のほか、修復などに使われている。


実際に手に取ればティッシュよりも薄く、繊細な扱いを求められるが、

版に施された凹凸表現を、雁皮紙を使うことで、余すところなく刷りあげることが可能になる。

多くの芸術家たちに今日まで愛用され続けている紙である。

前回のおさらい

その前に、前回のおさらいをしてみる。

紙には表面と裏面がある。

この場合の「表」とは、

版画の線表現やインクの色を、最適な状態で転写できる面

ということ。

以前、版画用紙『アルシュ紙』の表と裏の見分けかたを調べた話を書いた。

版画用紙の端には、会社の紋様だったり、社名などが
 ウォーターマーク(透かし)や
 エンボス(凹み)
として加工されている。

透かしや凹みの印を頼りに見分けて、素直に表面へ版を印刷すればいい。

さらに、カットされていない大きなサイズで紙を購入した時は、
ディッケルエッジ」(紙の端辺に残る、製紙型の跡。紙の耳部分)
などから判断できる。

しかし…である。

版の大きさや、作品に必要な余白に合わせて、版画用紙をカットすることがある。
切り離されれば当然、頼りにしていた「透かしの印や耳部分がない紙」ができあがる。

さまざまな製品の痕跡もなく、
紙の向きをそろえて重ねたか記憶にない(個人の問題です)。

こちらの視力、指先の感覚の衰え等…。
制作主の個人的な要因がほとんどな気もしますが、今回の雁皮紙は優しい。

触ればほぼ確実に裏表が分かる。

手触りのツルツルした面が「オモテ」、ザラザラしている方が「ウラ」。

—以上。



その代わり、私が使った雁皮紙には、透かしや凹み、耳などはなかった。

オモテとウラが分かって安心しつつも、ルーペも使い調べてみた。

見分け方の決め手は「紙の目」  繊維の様子がハッキリ

結論として、雁皮紙(がんぴし)の表と裏を見分ける決め手は、

「触るー指先で紙の面をなでる」ことなのだが、

紙の目も見てみよう。


紙の目とは、版画用紙が製紙工場でつくられたときの繊維の加工跡で、布の地模様のようなもの。

雁皮紙には、和紙の繊維模様を見ることができる。

私の手元にある雁皮紙はこちら。
〈表〉

雁皮紙(がんぴし)のオモテ

〈裏〉

雁皮紙(がんぴし)ウラ

触ってみて、ツルツルしている面がオモテ。
オモテ側は、目で見てもツヤ感がある。

雁皮紙をルーペで拡大

和紙の繊維を思い浮かべていただければ。

地模様がほぼ同じという罠…。


晴れた日の午前中、恒例?のルーペで紙の目を見てみる。

〈表〉

雁皮紙(がんぴし)のオモテ

〈裏〉

雁皮紙(がんぴし)ウラ

表面も裏面も、繊維模様が美しくて見惚れます。

確かめる時は、光沢の有無と、、、乾いた指先でなでてください。

「地模様」が、わたしにはこう見えた

個人的にこう見えたという表現で、雁皮紙の繊維の地模様をかいてみた。

とってもわざとらしく。

〈表〉

雁皮紙(がんぴし)オモテの地模様

〈裏〉

雁皮紙(雁皮紙)ウラの地模様

ルーペを通して見ると、裏面は繊維の筋がもりあがって見える。

ひと昔前のコミック表現で、血管が浮き出る「怒り」の表現みたいに、ちょっと出ている繊維。

これがザラザラとした手触りの正体かもしれない。

使ってみてどうなの?

実際に使ってみた。

実際に雁皮刷りをしてみた

雁皮紙そのものは薄いので、雁皮紙へ直に刷ることはできない。

版画用紙に、雁皮紙を貼り合わせつつ刷りあげる、という

雁皮刷りーがんぴずりー」という技法を使う。

(挑戦した話は、またの折に。)


いままで紹介した版画用紙のどれもが、その紙の特徴を生かしながら、

こちらの作品の凹凸をじゅうぶんに刷りあげてくれたが、

雁皮紙は、それに加えて余すところなく拾い上げてくれる印象を受けた。

いきなり雁皮刷りからやらない限り、その違いは見て実感できると思う。

雁皮紙を使うことで、画面部分に和紙の風合いと、雁皮紙固有の色がつくため、

作品に奥行きがでる。

素材のチカラがすごい。


いままで制作した版、すべて雁皮刷りしたくなる誘惑にかられるが

自分の作ったいくつかの版のなかで、どれを雁皮刷りしたいかを

考えるのも制作のうちだと素材から学んだ気がする。

とにかく繊細のなかの繊細な紙だった。

まとめ

以上が、雁皮紙のオモテとウラの見分け方について。

ポイントは、「触る」こと。

雁皮刷りをする際にあわてないためにも乾いた清潔な手で確認しておこう。

紙のオモテとウラについて

雁皮紙以外の版画用紙についてはこちらをご覧ください

◆版画用紙「ハーネミューレ紙」 表と裏との闘い

「アルデバラン」「BFKリーブ」のオモテとウラについてはこちらにまとめました

◆版画用紙のオモテとウラ 分かりやすい見分け方教えます

◇今回、雁皮紙を購入したお店(版画用、日本画用、修復用、など使用別に分けて選べる)
・アワガミファクトリー
 https://awagami.jp/

◇版画用紙が気になった方はこちら(大判サイズで購入して自分でカットされる方向け)

・萩原市蔵商店(注文はTEL、FAX、メール対応)
  https://www.hanga-hagiwara.co.jp/index.html

・株式会社笹部洋画材店
  http://www.sasabegazai.co.jp/index.html

・ゆめ画材
  https://www.yumegazai.com/

・文房堂 画材屋さんドットコム
  http://www.gazaiyasan.com/



画材道具

Posted by suho