◆ガラスペンと思い出

2021年2月24日

ガラスペン
ガラスペン

勤め先や自宅(親元)での制作がうまくいかず悶々としていた時期に出会ったガラスペン

人付き合いや、ものごとへの対処について教えて下さった師匠(知人のお父様)から譲り受けたガラスペン
うかがったお宅で受け取った時、即座に「ガサツな私が使うと割れちゃうな、きっと」と思いました。


そんなわたしに、師匠はすぐに使ってみろ、とは言いませんでした。
机に、万年筆ガラスペンを並べだしたのです。

ガラスペン
左から、ガラスペン3本、万年筆、筆。上は万年筆インクのボトル。

慣れてきたと思ったら…

手触りのいい和紙の紙に、硯と筆。
筆を渡されて
〈師匠〉「線、そこに書いてみ。」
義務教育で書写の授業があったし、筆と墨は初めてじゃない
さらさらとにじませながら、筆は進んでいく。


つぎに万年筆をいくつか。
インクをペン先につけて
〈師匠〉「なんか線、ひいてみ。」
これも使ったことがあるから抵抗がない
持ちての長さや太さ、メーカー別も楽しみながら線をナミナミさせたり、無限マークを書いてみたり。

〈師匠〉「はい、ガラスペン、こっちからね。」

ガラスペン・ペン先
毛筆の先がそのまま凍ったように繊細なかたち

持ち手が木、竹?っぽい。ガラスのペン軸も白くてなんだかガラス製の筆みたい。
インクをつけて、筆みたいに立てて…
     「?」・・・うまく書けない

〈師匠〉「はい、こっちのガラスペンね。外国製。」
こちらは軸から持ち手までガラス。
持った時、ちょっと重め

ガラスペン
持ち手までガラス製

横にしてアルファベットの小文字を書いてみる…
     あれ、書けるな?
もう一度、持ち手が竹のガラスペンをもって少し寝かせて線を引くと…
     普通に書ける
〈師匠〉「筆だと思ったでしょ?」
     ぎくり!
〈師匠〉「もうあんまし(扱うの)怖くないでしょ。」
     はい。
むしろ、竹の持ち手のペン(日本製)の繊細な線に取りつかれてしまった。
〈師匠〉「持ち手が竹のガラスペンは、お気に入りだから譲れんなあ。そうだ、今から知り合いンとこいって、そいつから譲ってもらおう」
     え?・・は?・・ええええ~~~

15分後車に揺られて師匠のお知り合いのお店(時計、貴金属専門店)に居るわたし。
   このお店とガラスペン、どういう関係?
   …っていうか、譲ってもらえるの?

いかにもマニア…というか職人気質な店主さんとしばらくお話し。
緊張していて、会話が頭に入ってこない。


いよいよ本題の話になって、奥から持ち手が竹のガラスペンが1本でてきた。
〈店主〉「試し書き、してみる?」
     はい!
さらさらと紙上を走るやわらかい線。
割れちゃうな、とびくびくしていた1時間前はどこへやら。

悲劇の始まり

試し書きで、どうやらわたしは試されていたらしい。
譲っていただけることになった。


それが悲劇(というか、もう喜劇)の始まりだった。
〈店主〉「帰る前に、ペンを洗ってあげよう。」

そういって、店主がペンをいれた先は、洗浄器である。
眼鏡屋さんにある、水の中に入れて超音波で微細な振動をおこし、レンズやパーツについた皮脂とか化粧などの汚れを、振るい落とす「ソレ」である。

スイッチがはいってすぐに、
    パン! 
という音がした。
超音波で、ガラスペンの先が弾け飛んだのである。

   ・・・・・ (声にならない)

血の気の引く音…

ガラスペンの先が弾け飛んでしまった。
店主含め、誰も動じていないので声が出せない。
わたしは心の中で大絶叫していた。

   ぎゃーーーーーーー

ガラスペン・ペン先
こちら、先がはじけ飛んだガラスペンです…


師匠「まあ、これはこれで…うん、違う書き味になるんと違うか。」
   ええええ・・・

師匠「試しに書いてみ」
   え、  あ、  はい。

ガラスペン・試し書き
当時の試し書きを再現。上がはじけ飛んだペン。下がペン先が存在しているペン。

先ほどの線とは違うけれど、うねったり滲んだり。
これはこれで…楽しい、楽しくなってきた。
   書けます。楽しいし。
店主「あ、じゃあ、持ってく?」
   はい、ありがとうございます。
自然とお礼の言葉が出た。

なんだかほっとして店内を見渡すと、貴金属以外にも棚の奥に万年筆やインク壺が並んでいるのに気が付く。
ようやく緊張が解けて、周りが見えるようになったと感じた。

後日店主さんから、(弾け飛んでない状態の)同じガラスペンが送られてきた。
(弾けたペンで試し書きしている時、どこかへ電話してたものなあ。)
結局2本とも手元にあって、どちらも愛用し、現役である。

予想外の出来事にも、やわらかな気持ちで構えて対処することのコツを教わった気がする。
心臓には悪かったが。

ガラスペン
2本並べると、思い出がよみがえる
ガラスペン
緑色の、レトロなラベルが貼られていました

はじめてのガラスペン。扱いがわからない場合、文具店のスタッフさんへ聞こう。

わたしの場合、手に入れた経緯が独特(しかも弾ける思い出つき)だった。
はじめてガラスペンを買うときは、購入する文具店のスタッフさんへわからないことを聞いてみるのが良い。
レジの担当の方より、お店の中をちょっと見渡して、万年筆やインクを扱うブースにいる方へ声をかけるとスムーズだ。
安価なものだと1000円前後、工房や作家の作で、お高いものだとン万円以上など、色々ある。


ペン先がはじけ飛ぶ経験をしたからだろうか、使うときは、ひと呼吸おいて「丁寧に」を心がけている。

他の筆記具と置き場所をわける。(鉛筆やボールペンと一緒にしない。)
・手を動かして使うハサミや定規などの近くに置かない。
・使い終わったら流水でゆっくりとインクを洗い流す。

・洗い終わったらやわらかい布でそっと拭く。
・筆洗器へ入れても超音波を流さない。



書く喜びと、静かな気持ち。
あのサリサリとした音。
おうち時間で、ガラスペン。楽しんでみては?

作品ウェブサイト

須藤萌子の銅版画、ドローイング作品、ワークショップイベントを紹介するサイトです。
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