◆版画用紙のシミ対策
版画用紙の裏についたシミの正体
シミの原因は、板張り用の木から出るアクである。
銅版画を制作するにあたって、版画用紙は、予め水に浸して湿らせておく。
これは、銅版の凹凸にフィットするよう、版画用紙をやわらかくするためである。
※ 銅版画の制作手順はこちらから
銅版画の作り方 エッチング技法の制作工程を紹介
水を含んだ版画用紙は刷り上げたあと、板へ置き、紙の四辺をテープで止める。
こうすることにより、乾いていく過程で紙がべこべこと波打って変形していくのを防ぐ。
これを板張りという。
紙が乾いたらテープをはがして完成なのだが、紙の裏を見て悲鳴をあげる。
四辺に近い部分へ沿うように茶褐色の斑点が浮き出ている。
浮き出てきたというより、染み付いてしまった感じだ。
版画用紙の表側にも染みだして来るかもしれない。
せっかく刷りは良いのに、これでは失敗だ。
原因は、板張り用に使っているベニヤ板からでる「木のアク」と思われる。
ベニヤ板の種類で違いが出るようだ。
ホームセンターで買った、ラワンのベニヤ板に貼った版画のほうがシミがでやすい。
美術画材店で買った水張り用の木製パネル(たぶんシナベニヤ)のほうがまだマシである。
また、版画用紙の種類でも違いが出るようだ。
水気を多く含みやすい版画用紙(私の持っている紙の中ではアルシュ紙)がアクを出しやすくしていること。
なんてことだ。アルシュ紙は高いのに。
それ以外の版画用紙も、紙の面積が大きく、水を長く含んでいるものほど木のアクが出てきやすく、結果、
紙のウラにシミが付きやすいことがわかった。
乾かしている際に行き場をなくしている水が板へしみ込んで、そこからアクが出てしまったのだろう。
安価なラワンのベニヤ板に飛びついて使用していた私に原因があった。
※ホームセンターをはじめそれぞれの素材にはなんの落ち度もない。木の特性がでたというだけである。
様々な素材や画材に対して申し訳ない気持ちになってきた。
じゃあ全部シナベニヤに買い変えればいいじゃないか、アクが出る必要がないボードに貼れはいいじゃないか、となる、がそこは貧乏性である。
今ある板でなんとかならないか。
そこで、シーラーという画材用のにじみ止め液を買ってみた。
シーラーで対策
シーラーは、一見するとニスのようだが、日本画や水彩画、アクリル画を描く人が、和紙やケント紙を水張りする際に木製パネルへ塗布しているものである。
日本画専攻の同級生が、水張り用の板の表面を、なんども洗い、布で拭きあげ乾かしていたのがおぼろげな記憶に残っていた。あれはアク対策だったのか。
確かに絵具を溶いたり描いたりする際に水をたくさん使えば、紙が直接パネルに当たるのだからアクが染みだしたら大変なことになる。
とりあえず、ラワンの大判板と、美術用の木製パネル数枚にもシーラーを塗ってみる。
ツヤが出た…。
塗って乾かした板に、刷り上がった版を板張りしてみた。
版画用紙は、よく使うハーネミューレと、水含み抜群のアルシュ紙を使った。
丸1日板張りしたままにし、翌日紙のウラを見てみる。
紙のウラには全くシミがなかった。
結論
結論として、シーラーを塗った板を使うと、木のアクが紙へ染みだす危険は「減る」ことがわかった。
「ゼロになる」と書きたいのはやまやまなのだが、加工されたとて木は生き物だし何がおこるかわからない。
板張りだけではなくクリップでとめたり、乾燥棚に吸い取り紙を敷いてその上にのせて乾かす方法もある。
クリップが金属製の場合、接地面の錆が付着する場合もあるから注意が必要である。
また、なんといっても紙を乾燥させる環境状態を整えることが重要だ。
なるべく風通しがよく、湿気のたまらない室内ですばやく乾燥させた方がよい。
なんだか今年の夏は、自分より版画用紙の方が好待遇を受けている気がする。
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