◆名画をゆるく模写 『眠るジプシー女』 アンリ・ルソー 『2022年ゆる模写カレンダー』8月
名画を「ゆるく」模写してカレンダーにしてみた
『眠れるジプシー女』
原作者 アンリ・ルソー
制作 1897年
所蔵 アメリカ、ニューヨーク近代美術館
一度見たら忘れない絵
夜空も、砂漠も、横たわる女性も、すべて時が止まったようにみえる。
はじめてルソーの作品を見たのは、小学生くらいのころだったと思う。
美術の教科書に載っていたのが、この『眠れるジプシー女』。
猛獣とは程遠い雰囲気のライオン。
画面に貼りついたように横たわる女の人。
危機感のない静かな場面。
一度見たら忘れられない。
今見ると、鼻先を近づけるライオンも、眠る女の人も、どこかハリボテ感がある。
砂漠も、人も、特に劇的な展開を望んでいないようだ。
彼の描く作品のモチーフには、なんら難しいものはない。
植物、風景、人物。
私たちが普段見慣れているようなものばかりだ。
誰もが見慣れているものを描いているにもかかわらず、描かれたモチーフや場面は非現実的で、バランスがいいとは言えない。
だが、それが独特の不安定さを醸し出し、見る者へ強いインパクトを与えているのかもしれない。
異色の画家
ルソーは最初から〈職業・画家〉だったわけではない。
パリの税関がルソーの勤め先だ。
そこで、塩やワインなど、パリに運び込まれる品物の関税を徴収するのが主な仕事だった。
市の関門で仕事をしながら、趣味で絵を描き始め、すべて独学で画法を身につけた。
独学で、というと「何もかもひとりでがんばった」というイメージが浮かぶかもしれないが、
彼は、多くの職業画家に助言を求めていた。
アカデミックで、画力の高い大家から教えや指導を受けたのに、ルソーの画風は彼らの画風に全然染まらなかった。
というか、傍目には失敗したとも言える。
ところが、ヘタウマというか、アンバランスというか、描きたいものを純粋に描く、というルソーの作風が、当時の前衛作家たちから高い評価を受けるところとなった。
ルソーの「描きたいスピリット」
ルソーの描くものには砂漠や密林など、エキゾチックなものがある。
だが、ルソーは一度もジャングルに行ったことはない(!)のだそう。
植物園や依頼主の家にある鉢植え、カタログの写真などを参考にしただけというから驚きである。
そんな中思い出したのが、学校の美術課題で先生が生徒へよく言い聞かせていた言葉だ。
「写真や検索画像だけを見て絵を構成するのは勧めない。なるべく実物を多方向から観察してほしい。実体験を大事にして表現してほしい」という言葉だ。
数枚の限られた角度からとらえた写真を見ながら絵を描くと、同じものを描いているのにペタッとした感じになってしまう。
私も同じ体験をしたことがあるから、すごく良くわかる。
時々、絵画コンクールの作品群のなかで「貼りついたような」印象のある作品をみると、ちょっとルソーを思い出してしまう。
描きたい熱意と、いままでの己の体験が入り混じる作品たち。
今日も、作品を生み出す人の傍に、ルソーはひそんでいるのかもしれない。
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