◆長すぎるタイトルの本『雨の夜にカサもささずに・・・』 イチハラヒロコ 三修社
わたしの本棚にあるなかで一番タイトルの長い本
『雨の夜にカサもささずにトレンチコートのえりを立ててバラの花を抱えて青春の影を歌いながら「悪かった。やっぱり俺…。」って言ってむかえに来てほしい。』
長いタイトル。
挿絵はない。
白いページに、ぐいぐいと黒い文字がならぶ。
俳句のような、標語のような、1ページに一言だけ、淡々とつづられている。
なんだか妙に印象に残る言葉がある。
じわじわと効いてくる。
この人ゴミを押しわけて、はやく来やがれ、王子さま
イチハラヒロコを知ったのは、10代後半の頃。
友人Tから、なんか面白い本見つけちゃった、と教えてもらったのがきっかけだ。
〈友人T〉「江戸時代から好きでした、って書いてあるんだよ。」
〈わたし〉「え・・・江戸時代・・・(???)」
その本。
タイトルが、また衝撃的だった。
『この人ゴミを押しわけて、はやく来やがれ、王子さま』
来やがれ、という言い回しが小ざっぱりとしている。
江戸時代から好き、という言葉に情念が宿るどころか、どこか可笑しさがこみあげてくる。
20代の頃、大学生協の絵本フェアで、またイチハラヒロコさんの本をみつける。
ラプンツェル(原作に近い方)のお話とコラボレーションしていて、物語が進むと同時にイチハラさんの言葉が交互に綴られている仕様だ。
王子さまが大地をさまよう場面のページに
「これが恋か 足が棒だ」
とあって、吹き出しそうになったのを覚えている。
(はやく来やがれ、と思うわなこれじゃ。)
昔話や童話の夢見がちな部分、教訓たる部分を、数行でスパスパ表していく「イチハラ節」が痛快だった。
憎めなくて、どこか悲しく、そして愛しい気持ち。
仕事や暮らし、そして制作など、周りの環境が変わっていった。
そのなかで出会ったイチハラさんの本が、
『雨の夜にカサもささずにトレンチコートのえりを立ててバラの花を抱えて青春の影を歌いながら「悪かった。やっぱり俺…。」って言ってむかえに来てほしい。』
だった。
長い。
長すぎるタイトル。
この本のなかでお気に入りの言葉は
エブリタイム ケンカ腰。
そして、巻末近くに綴られている言葉たちだ。
どこまでいけば一人前。
何まですれば一人前。
そもそもお前は何人前。
相変わらず淡々としているけれど、これは効いた。
あはは!と笑いながら読んでいたのが懐かしい。
社会や暮らしのなかで、遭遇しちゃった「人」や「ものごと」にソワソワしたり、悲しくなったり、憎い!と思ったりしたことがあればあるほど、イチハラさんの言葉はよく効く気がする。
自分の中にある「喜怒哀楽」を平等にすくいあげて、サッパリと干してもらえる感じ。
この世の自粛中、のっぺりした気持ちが軽やかになる一冊でした。
須藤萌子の銅版画、ドローイング作品、ワークショップイベントを紹介するサイトです。
こちらもご覧ください。
https://sudohoko2016.wixsite.com/sudohoko
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません