◆名画をゆるく模写 『ラス・メニーナス 宮廷の侍女たち』 ディエゴ・ベラスケス 『2022年ゆる模写カレンダー』9月
名画をゆるく模写してみた
『ラス・メニーナス』
原作者 ディエゴ・ベラスケス
制作 1656年
所蔵 スペイン、プラド美術館
果たして、これはゆるく模写できるのか?
原作者ベラスケスの筆さばき。
画集のページからムワァーッと重厚な空気が漂う感じ。
果たして、これはゆるく模写できるのだろうか?
はじめてこの絵を観たのは画集か、テレビの美術館特集かは覚えていないのですが…
「幼い顔に豪奢が過ぎるドレスを着た子供」と
「幼子ひとりに、大げさなくらいにとりまく大人たちの数」に
度肝を抜かれました。
それもそのはず…
画面中央にいる少女は、王女なのだから。
何が描かれている?
『ラス・メニーナス』(LAS MENINAS)
日本では『宮廷の侍女たち』と紹介されることが多いです。
原作のサイズは縦318センチ、横276センチ!
大きな画面に、11名の人間と、1匹が描かれています。
画面中心でドレスを着ている少女。
両脇に侍女ふたり、後ろにも廷臣(宮廷に仕える臣下)と侍女を従えています。
この少女は、スペイン国王フェリペ4世の娘で、当時5歳のマルガリータ王女。
視線だけ、チラリとこちらに向けているのが印象的です。
その前まで彼女が見ていたのは、顔の向きからすると画面右下の犬でしょうか。
よくみるとこの犬、一番右側の子どもに足蹴にされてないか?
「な…ワンちゃんを蹴るなんてたいへんけしからん。誰なの、この子!」
と画集の注釈を見れば、足蹴にしているこの子は「道化」とありました。
当時、支配階級の者が気晴らしのために雇う人たちの中には、身軽で話の達者な人や、何らかの身体的または知的障害を持つ人が含まれていました。
最初、王女と変わらないくらいの子どもかな?と思って観ていました。
ところが、彼は、国王フェリペ4世が、王の家族や廷臣たちを楽しませるために雇われた「道化」だそうです。
同様に、となりに描かれているドレスを着なれていない人も「道化」です。
彼らには名前も残っており、犬を足蹴にしている人は〈ニコラス・ペルトゥサート〉、
ドレスを着ている人は〈マリ・バルボラ〉。
つまり、道化たちが犬をいじめたり、身分や体形にそぐわないドレスを着たり(一種のコスプレ?)して、王女を楽しませていた場面、ということになります。
これ、マルガリータはどういう感情で見てたんでしょう?
個人的には、ついていけないや…と思いました。
ベラスケスを、「すごいなー」と思うのは、宮廷内のあらゆる階層の人々を同じ画面に描いたこと。
ゆる模写だと、分かりにくいですが、画面の奥には幅の広い額縁に入った鏡がかけてあります。
鏡に映る2人は、国王フェリペ4世と、その妻の王妃マリアナなのだそう。
ニコラス・ペルトゥサートや、マリ・バルボラなどのほかに、慰み者として雇われていた道化師たちの肖像画をベラスケスは何枚も残しています。
そのどれもが、鋭い観察力と確かな画力で描かれています。
「この時代、この人が宮廷内にいたのだ!」
と、観る者へリアルに迫ってきます。
「ちょっと、ついていけない。」
という、こちらの気持ちを見透かされているようで、ドキッともします。
画家の主張がギンギンにこもってる
画面の左端に描かれているのは大きなキャンバスの裏側。
そして、筆を持った髭の人がベラスケス本人です。
「宮廷内のあらゆる階層の人々を同じ画面に描いた」
と、ベラスケスのすごさを記しましたが、
自分自身も王族と同じ空間に存在させてしまうのも、
「なかなかだなー」
と、思ってしまいます。
突然ですが、みなさんは『芸術家の地位』って、当時どの辺りだと思いますか?
当時のスペインでは、画家というのは「職人」であって、美術作品は「手仕事による商品に過ぎない」という考え方でした。
すごく画力もあり才能もある画家であっても、自分の手で稼ぐという者は「職人」です。
そして、それは紳士階級ではないという考え方。
画家や絵画の地位を低く考える社会に対して、
「絵画というものは、敬意を払われるものなんだ」
「その絵を描く芸術家(自分)も高貴なんだ」
という主張を、この『ラス・メニーナス』の中でしています。
鏡越しとはいえ、国王夫妻の隣にちゃっかり自分描いてますし。
この絵を描いた3年後、ベラスケスはスペインで騎士の称号を手に入れた最初の画家となりました。
国王フェリペ4世が推薦し、教皇アレクサンドル7世から特別免除を経てまでして与えた称号というのだから驚きです。
でも、せっかく騎士の称号を得たのに、ベラスケスは1年も経たないうちに熱病でこの世を去るのです。
画力も、パトロンも、生き方さえも破格なベラスケス。
スペインのプラド美術館へは、一度訪れてみたいです。
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