◆『死ぬまでに行きたい海』 岸本佐知子・著 株式会社スイッチ・パブリッシング

2021年2月24日

懐かしくてどこかサミシイ、をちょっとずつ味わう感じ

『死ぬまでに行きたい海』岸本佐知子
表紙と目が合う

『死ぬまでに行きたい海』は、読み進めていくうちに、これこそ「今読みたい本」だと思った。
読み終わって、「後から何度でも、どの章からでも読んでしまう本に出会った」という気がした。

岸本佐知子(きしもと・さちこ)さんを知ったのは、ショーン・タンの絵本『セミ』を読んだとき翻訳者として名前が載っているのをなんとなく覚えていたのがはじまりだ。
その後、エッセイ集『ねにもつタイプ』を読んで、相棒のタオルの話にて衝撃が走る。

ライナスの青いブランケットどころではない、謎の安心感
この方、キシモトさんの作品とは、長い付き合いになりそうな気がする。

ヒトメ惚れというか…本なので、ページ惚れした瞬間であった。


鬼出不精という言葉のインパクト・・・

ご自分のことを「超がつく、鬼がつくほどの出不精」と称されている岸本さんが、出かけた先の見たまま聞いたままを書いたのが『死ぬまでに行きたい海』。
この本の中で、わたしが好きなところは、

「人間の規模が小さいと、自由な散策もままならない

という一節だ。

以前から私は、そのあたりをぶらつく、とか、ちょっとそこまで散策してみるというのが下手だった。
ぶらつく、というのが本当にできなかったし、しようとも思わなかった。
そういうテレビ番組も苦手だった。
ちょっとそこの小道へ入ってぶらっと、が楽しめる同級生や、旅先でしれっと横道へいき、しれっと戻って何食わぬ顔で列に戻ってくる祖母にハラハラ、イライラした時期もあった。

あれはハラハラでも、イライラではなく、羨しく思ってたのか。

あの時の私を今みたら「ゴリゴリの超つまんねー奴」だと自分でも思う。
ああ、散策したい、してみたい。

すでに「したい、してみたい」と言っている時点で規模の拡張は見込めないけれど。
自分自身、一生のうちに行ける場所なんてそう多くないのかもしれない。
距離に関わらず、行きたい場所に行けるということが、実はとてもすごいことに思えてきた。

『死ぬまでに行きたい海』岸本佐知子
カバーを取ると、記憶に靄がかかったような海色の表紙。しおりの色とおそろい。

◇この本が気になった方はこちら
死ぬまでに行きたい海

作品ウェブサイト

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書評

Posted by suho