◆版画用紙のオモテとウラ 分かりやすい見分け方教えます
見分け方のポイント
表と裏の見分け方のポイントは、以下の2点になる。
・社名やロゴ
・紙の目
銅版画家として、普段、接している紙の「表と裏の見分け方」について、自分の体験を交えながら分かり易く解説する。
ふたたび、悩んでいる
紙には表面と裏面がある。
この場合の「表」とは、
版画の線表現やインクの色を、最適な状態で転写できる面
ということになる。
以前、版画用紙(ハーネミューレ社)の表と裏の見分けかたを調べた話を書いたことがある。
◇紙のオモテとウラを気にするきっかけになった記事はこちら
◆版画用紙「ハーネミューレ紙」 表と裏との闘い
◇「アルシュ紙」の裏と表についてはこちらの記事を
◆版画用紙「アルシュ紙」 オモテとウラの見分け方
購入した版画用紙には、紙の端に会社の紋様だったり、社名などが
ウォーターマーク(透かし)や
エンボス(凹み)
などに加工されている。
透かしや凹みの印を頼りにしながら、素直に表面へ版を印刷すればいい。
しかしである。
版の大きさや、作品に必要な余白に合わせて、版画用紙をカットすることがある。
切り離されれば当然、頼りにしていた透かしの印がない、紙ができあがる。
紋様のウォーターマーク(透かし)もない。
社名のエンボス(凹み)もない。
紙の向きをそろえて重ねたか記憶にない(個人の問題です)。
カットの際、紙の端に鉛筆で小さく印を付けておけば万事解決なのだが、作業が中断して戻ってきたとき、うっかり印を付けるのを忘れていたことに気づく…
ということが私にはたまにある。
たまにというか、よくある。
20代のころは、指先の感触で紙のオモテを確かめることができた。
薄暗い作業室でも、デスクランプへちょっと紙をかざせば、なんとなくわかったものだ。
しかし今は…。
末端冷え性の指先で触っても、紙であるということしかわからない。
視力に至っては、曇りや夜中の作業場のなかでは、どちらもオモテ面に見える。
これはまずい。
自分の手元にある他の版画用紙の表と裏を見分けられるか、まとめてみた。
現在の視力と指先の感覚が心もとないので、ルーペも使うことにした。
見分け方の決め手は「紙の目」
表と裏の見分け方は、
「紙の目を見ればいい。」
学生時代の記憶の中を探ると、教授は確かそう言っていた。
紙の目とは、版画用紙が製紙工場でつくられたときの繊維の加工跡で、布の地模様のようなもの。
表と裏は、地模様が違うから見ればわかるはずだ。
今、近づいて、紙の角度を変えながら面を見てみた。
うーん…夕方以降は心の目で見るしかない(つまり見えない)。
晴れた日の午前中、矯めつ眇めつして見た結果が以下である。
ハーネミューレ(ドイツ)
まずはドイツのハーネミューレ紙から。
私の手元にあるハーネミューレ紙は
・クリーム色の紙で文字の透かしが入ったもの
・白い紙で紋様の透かしが入っているもの
2種類あった。
文字の透かしが「HAHNEMUHLE」と正しく読める面がオモテ。
クリーム色のハーネミューレの表面をルーペで拡大してみる。
〈表〉
〈裏〉
次に、白色のハーネミューレを見ていく。
こちらは盾を持つ雄鶏の紋様が透かしで入っているのが見える。
以前、ハーネミューレ紙のオモテとウラを調べたことがあった。
最初は安直にネットで検索したのだが、サイトによってオモテとウラの扱いが異なっていた。
最終的に、日本でハーネミューレ版画用紙を取り扱う会社、株式会社オリオンさんへ伺ったところ、
「雄鶏が左を向いているように見えるのがオモテ」
と教えていただいたので、今回はそのように調べていく。
白いタイプのハーネミューレ紙も表と裏を見比べてみる。
〈表〉
〈裏〉
表面は繊維が整っていて、裏面は割とモコモコとしていた。
個人的にこう見えた、という表現でハーネミューレ紙の繊維の地模様をかいてみた。
わたしの視力(というか画力というか)では、これが限界みたい。
アルデバラン(日本)
アルデバラン紙は日本製の版画用紙。
製造元の株式会社オリオン社は、先に紹介した、ハーネミューレ紙の輸入代理店もしている。
以前、紙の表裏を問い合わせた際、とても丁寧にお返事を下さった。
こちらの紙は「ALDEBARAN」のロゴが紙の端にプレスされている。
文字が正しく読める面がオモテ。
ルーペを使ってみていく。
〈表〉
〈裏〉
アルデバラン紙の繊維の地模様。
アルデバラン紙の面は、表も裏もきめ細やかなため、わたしはロゴを頼りにしないと、ほとんど見分けがつかなかった。
手描きの地模様は、かなり大袈裟にかいてある。
BFKリーブ(フランス)
会社が合併した今も、その名前が残るフランスのBFKリーブ紙。
「BFK RIVES」「FRANCE」「∞」の透かしが正しく読める方がオモテ。
〈表〉
〈裏〉
BFKリーブ紙の繊維の地模様をかいてみた。
学生時代に初めて扱った版画紙がBFKリーブだったこともあり、私個人としては比較的、紙の表と裏がわかりやすい紙だと思う。
まとめ
以上、版画用紙の裏と表の見分け方についての解説だった。
ポイントは、「社名やロゴ」と「紙の目」を見ること。
ここでは、自分の感覚を基に説明したが、実際に使う人が自分自身で見て、触ってみることが重要。
紙の表と裏が作品に与える影響は?
そんなに紙のオモテとウラは大事なのかというと、
重要です。
としか言いようがない。
仮に裏面に版を刷ってしまっても、さほど変わりはないかもしれない。
版画用紙の「表」は、製紙会社が、
版画の線表現やインクの色を、刷りあげた際に最適な状態で転写できるように作った面
なので、自分の表現をきちんと刷り上げるために、知っておいて損はないと思う。
紙のオモテとウラを理解して、管理していればいいこともある。
私の場合は、制作中に満足な印刷ができなかったときだ。
失敗の原因を調べたり、画材の工夫をしたりなど、制作の条件を探っていく際、大いに助かる。
それに、紙は貴重品。
何枚も同じものが印刷できる版画だからこそ、一枚を大事に扱いたいと思う。
◇紙のオモテとウラを気にするきっかけになった記事はこちら
◆版画用紙「ハーネミューレ紙」 表と裏との闘い
◇「アルシュ紙」の裏と表についてはこちらの記事を
◆版画用紙「アルシュ紙」 オモテとウラの見分け方
◇版画用紙が気になった方はこちら(大判サイズで購入して自分でカットされる方向け)
・萩原市蔵商店(注文はTEL、FAX、メール対応)
https://www.hanga-hagiwara.co.jp/index.html
・株式会社笹部洋画材店
http://www.sasabegazai.co.jp/index.html
・ゆめ画材
https://www.yumegazai.com/
・文房堂 画材屋さんドットコム
http://www.gazaiyasan.com/
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『須藤萌子 版画とドローイング』
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