◆名画をゆるく模写 『アプサント』エドガー・ドガ『2022年ゆる模写カレンダー』5月

2022年10月7日

『アプサント』エドガー・ドガ
『アプサント』エドガー・ドガ

名画を「ゆるく」模写して、カレンダーにしてみた

ゆる模写カレンダー5月

  『アプサント』

原作者 エドガー・ドガ

制作  1876年

所蔵  フランス、オルセー美術館

ゆるく描いた人 すどうほうこ

アプサントというお酒

アプサント、は、アブサンのフランス語読み。
色々なハーブとスパイスをあわせて作った薬草系のお酒です。
度数も高く(40度以上!)、体に悪いとされ、数か国で禁止されるほどでした。
体に悪いって、お酒は飲みすぎればだいたいみんなそうだよ…と思うのですが。

お酒に使われているハーブの中に、幻覚性のあるものが入っていたから、
当時人気で、量産されたときに粗悪なものが増え中毒性もあったから

…など所説あります。


今、販売されているアプサントには幻覚作用はないです。
度数は変わらず高いですが。

透明な緑色をしていて、水を数滴垂らせば乳白色になる…ちょっと不思議なお酒です。

一度、数口だけ飲んだ記憶があります。
「ちょっと薬っぽいな」という印象でした。

深夜のファミレスを彷彿とさせる 

画集ではじめて『アプサント』を見たとき、グラスを前に背中を丸めて座り、ぼんやり前をみつめる女性から、目が離せませんでした。

画面のなかに描かれている2人はドガの友人で、それぞれ女優と版画家。
モデルたちは、なんとなくその場に居合わせた客の体で、もったりとした空気に包まれ、カフェに存在しています。

この、平凡な、なんてことない人間らしい一場面を描いた絵は、当時批評家たちのブーイングの的になったのだそう。
なんでも、崇高な絵画の世界を汚したとか何とか…。
絵ぐらい好きに描かせてよ、という感覚からしたらちょっと驚きですよね。

しかし中には好意的に評価した作家もいました。
「何度見てもまた見たくなる作品」
という感想に、私は賛同します。

だって、この絵、この人の表情、どこか今にも通じるものがあるような気がしませんか?

深夜から明け方にかけてのファミレスに、もったりと居るような気持ちになります。
(このご時世で24時間営業のファミリーレストランは少なくなりましたが。)

ドガの鋭い観察眼を垣間見る

今回、ゆるく模写していて、原作者であるドガの鋭い観察眼を感じました。

驚くべきことに、『アプサント』が描かれた1876年、ドガは右目の視力がほとんどない状態だったようです。
(徴兵されたときの視力検査で判明したと図録にはあります。)
晩年、彼の人間を見る観察眼が全く衰えていないことには、ただただ驚くよりほかはありません。

レッスン中の踊り子がトゥシューズをなおしているところ
盥(たらい)へ身をかがめる女性のしぐさ
競馬場の騎手が馬に乗り身をひるがえそうとしている一瞬

図録をめくれば、人間のふとした動きや表情をとらえたものばかりです。

いままで、パステル色がきれいだなー、デッサンめちゃくちゃうまいなー、くらいしか思っていなかったのですが、見る目が変わりました。

先入観なしに、作品から何かを浴びることはとてもよいことだと思っています。

人生の軌跡をたどると、その作家の作品がより味わい深くなる、という良い体験でした。

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