◆名画をゆるく模写 『アプサント』エドガー・ドガ『2022年ゆる模写カレンダー』5月
名画を「ゆるく」模写して、カレンダーにしてみた
ゆる模写カレンダー5月
『アプサント』
原作者 エドガー・ドガ
制作 1876年
所蔵 フランス、オルセー美術館
ゆるく描いた人 すどうほうこ
アプサントというお酒
アプサント、は、アブサンのフランス語読み。
色々なハーブとスパイスをあわせて作った薬草系のお酒です。
度数も高く(40度以上!)、体に悪いとされ、数か国で禁止されるほどでした。
体に悪いって、お酒は飲みすぎればだいたいみんなそうだよ…と思うのですが。
お酒に使われているハーブの中に、幻覚性のあるものが入っていたから、
当時人気で、量産されたときに粗悪なものが増え中毒性もあったから
…など所説あります。
今、販売されているアプサントには幻覚作用はないです。
度数は変わらず高いですが。
透明な緑色をしていて、水を数滴垂らせば乳白色になる…ちょっと不思議なお酒です。
一度、数口だけ飲んだ記憶があります。
「ちょっと薬っぽいな」という印象でした。
深夜のファミレスを彷彿とさせる
画集ではじめて『アプサント』を見たとき、グラスを前に背中を丸めて座り、ぼんやり前をみつめる女性から、目が離せませんでした。
画面のなかに描かれている2人はドガの友人で、それぞれ女優と版画家。
モデルたちは、なんとなくその場に居合わせた客の体で、もったりとした空気に包まれ、カフェに存在しています。
この、平凡な、なんてことない人間らしい一場面を描いた絵は、当時批評家たちのブーイングの的になったのだそう。
なんでも、崇高な絵画の世界を汚したとか何とか…。
絵ぐらい好きに描かせてよ、という感覚からしたらちょっと驚きですよね。
しかし中には好意的に評価した作家もいました。
「何度見てもまた見たくなる作品」
という感想に、私は賛同します。
だって、この絵、この人の表情、どこか今にも通じるものがあるような気がしませんか?
深夜から明け方にかけてのファミレスに、もったりと居るような気持ちになります。
(このご時世で24時間営業のファミリーレストランは少なくなりましたが。)
ドガの鋭い観察眼を垣間見る
今回、ゆるく模写していて、原作者であるドガの鋭い観察眼を感じました。
驚くべきことに、『アプサント』が描かれた1876年、ドガは右目の視力がほとんどない状態だったようです。
(徴兵されたときの視力検査で判明したと図録にはあります。)
晩年、彼の人間を見る観察眼が全く衰えていないことには、ただただ驚くよりほかはありません。
レッスン中の踊り子がトゥシューズをなおしているところ
盥(たらい)へ身をかがめる女性のしぐさ
競馬場の騎手が馬に乗り身をひるがえそうとしている一瞬
図録をめくれば、人間のふとした動きや表情をとらえたものばかりです。
いままで、パステル色がきれいだなー、デッサンめちゃくちゃうまいなー、くらいしか思っていなかったのですが、見る目が変わりました。
先入観なしに、作品から何かを浴びることはとてもよいことだと思っています。
人生の軌跡をたどると、その作家の作品がより味わい深くなる、という良い体験でした。
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